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1 猟師の茸採り

< 猟師の茸採り >

 「カヤバのミズナラのドングリはあっちこっちしかなってねえ。熊がかんむくったあとがあったが、ヒラの下のほうはマミだ。帰りにナメコ、ムキタケ、カンタケ採ってきた。あそこは春行けばエラひとかごは採れんな」

 私の父・清一(一九三二年生)が狩猟に出かけた裏山から帰ってきて、ふだん着に身支度したあと炬燵(こたつ)にあたり、自分で入れた熱い緑茶を飲みながら話し出す。父の居る横座、その差し向かいにいる私の祖母、つまり父の母親のトシ(一九〇八年生)に話しかけている。これは一九九四年十一月十六日のわが家の光景である。山から戻ると、たいがいこうした会話がはじまる。祖母は数十年前のことを引き合いに出して「おれの若い頃は、あそこの萱場(かやば)は、誰彼と行ったときにシメジをひとしぇえ(一背)採った」という具合だ。そこで、過去に利用した資源の中味と量、自生そのもの量が変化していることを家族の中で確認している。たまに、こうしたやりとりの中で祖母から聞いておいたとおりに茸のオイハ(線上に発生する場所)から収穫をしてくると父は「婆様ゆった(言った)とおりだったぞ」と言う。
 これら山菜・茸は、家庭で利用し、一部を町場に住む親戚に贈与している。保存しておけるものは、村の行事や冠婚葬祭時の献立に必ず付けるため、必要なものも多い。

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